第8章 Incomplete
「西班、尾行はばれてないよね?」
『当たり前だ』
「……」
(敵の本拠地を突き止めるなら、そのまま監視を続けさせた方が得策か。でも、もし何かあったら……)
「レオーラ」
腕を組んで考え込んでいたレオーラは名前を呼ばれて顔をあげた。すると、音を立てて頬を両手で挟み込まれる。
「私達は弱くないよ」
澄んだ菫色の瞳に射抜かれて硬直していたレオーラは、暫くして力強く頷いた。
「西班、そのまま尾行。敵のアジトを見つけて場所を記憶したら船に戻って」
『そう来なくちゃな』
満足そうな声音を最後に通信は切れた。フレイアもニヤリと満足そうに笑ってレオーラを見上げる。
「あんたやっぱり隊長向いてないでしょ」
「否定はしないよ」
クツクツと笑いながら歩き始めた彼の足取りは軽やかだった。
「じゃあ報告始めて」
二人が船に戻ると、既に残りの者達は集結していた。尾行を続けている班を除き、全員が無事であることを確認したレオーラは内心ほっと息を吐きながら次の指示をだす。
「じゃあ森の東から。向こうは誰も居なかったっす。むしろ誰も立ち入らないせいで獣道しかないような状況で」
「東は子供達の遊び場や、畑があったはずだけど」
「それが、荒れ放題でまったく……」
「あいつらが荒らしたのか」
「可能性はあると思うっすよ」
報告を聞いて一様に眉間に皺をよせる。街での暴挙を見ていたフレイアに至っては目の前に座っていた男がすくみ上る程の殺気だった。
「……街に閉じ込められてるのか。アジトの位置によっては面倒だな。了解。じゃあ街の方は?」
「隊長も見た通りの横暴ですよ。我が物顔でウチのナワバリ荒らしやがって」
心底憎たらしいという様子で舌打ちする男を見て全員が頷いた。皆見ていたものは少しずつ違うが、フラストレーションがたまっているのは同じだ。
「これからどうするんすかータイチョ―」
「明日の昼にはモビー・ディックも到着予定だ。それを待って、尾行中の班と連絡を取りながら潰すよ」
「うわ、隊長顔に出てないだけで割と怒ってますね?」
「割とってか、かなり怒ってんだろこれ」
「はっはは、否定はしないよ」
わざとらしい笑い声をあげるレオーラを見て、全員の顔に冷や汗が伝った瞬間、彼のもつ電伝虫が着信を告げた。