第8章 Incomplete
「ねえ、お父さん」
「どうした?」
「白ひげのおじさんたちは、本当に来てくれるのかな」
少女の言葉に二人の身体に力がこもった。薄っすらと涙の滲んだような震えた声に応えたかった。
「大丈夫だ」
力強い声が響いた。その声に弾かれたように顔をあげる。
「職人たちが色々と頑張ってるらしい。今外に出るのは職人たちの作ったものだけだ。あいつらに任せるしかない」
「でも、でもさ」
「……来てくれるさ。あの人はそういう人だ」
自然と背筋が伸びていた。先程まであった自己嫌悪も無力感も怒りも何もかも消えて、ただ静かで強い想いだけが二人の心を満たしていた。
「……フレイア、行くよ」
「うん」
家族の気配が去っていくのを感じてフレイアは作った壁を静かに切り捨てた。彼女の表情を見て薄っすら笑みを浮かべたレオーラは、そのまま来る際に利用した地下道への入り口目指して走り出した。
「とりあえず、オヤジ達との合流優先だな。散開させてる皆を船まで呼び戻して、情報のすり合わせか」
「……あの家族みたいに理不尽なめにあってる人たちがいるかもしれないの、そんなに悠長な」
「だからこそだよ」
ぴしゃりとレオーラは言い切った。それに不満そうな顔をするフレイアの鼻の頭を叩く。
「信頼されてる。失敗するわけにいかない。街の人たちに被害をなるべく及ぼさないようにするために必要なのは?」
「情報と戦力」
「僕達にいまあるのは?」
「情報だけ」
「分かってるなら黙って従ってね」
やれやれ、と頭を掻きながら言うレオーラに何も言えず、フレイアは小さな声で同意を返した。
分かっている。分かっていても我慢できないことはある、と全身から立ち上る「不満があります」といったオーラが伝えてくる。それに溜息を吐きながらも気付かないふりをするのがレオーラという男だ。
「おーい皆聞える?」
『聞こえてる』
『はいはい』
『聞こえてますよ』
『おう』
「首尾は?」
『船上は何もない』
『森の中東は何もないっす』
『街の方は……隊長も知っての通りです』
『森の西、敵のリーダーっぽい男を見つけて追跡中』
「……」
報告を聞いてレオーラの目が僅かに見開かれた。