第8章 Incomplete
数時間後、予定通りノーバ島に二番隊は到着していた。港を使うわけにはいかず、街の正反対に位置する森にある砂浜に人知れず上陸していた一行は予定通り行動を開始した。
街に出て情報収集する者達、島の多くを覆う森を散策して敵の影を探す者達、船に残る者達、とそれぞれが役割を熟す。その中で、フレイアとレオーラのコンビは、街の地下道で険しい顔をしていた。
「まあ、大よそ起きている事態はわかったね」
「そうね……」
遡ること数十分前……
島に上陸した後、二人は少人数の機動力を生かして街に最初に潜りこんだ。そして一瞬で顔を顰めた。
ノーバ島は穏やかな気候によって盛んな農業による自給自足と、そんな島を気に入った少数の腕のいい職人といった騒がしさとは無縁の場所だ。しかし、街には明らかに島の者でない風貌の男達が我が物顔で闊歩しており、島民はその男達と顔を合わせないように俯いている。
「……」
「明らかに原因はあいつらよね」
「そうだね」
屋根の上から街の様子を窺っていた二人は揃って小さく溜息を吐いた。
あの”白ひげ”のナワバリと知っての愚行か、知らない無知か。どちらにしても、前半の海でそこそこの評価をされることで、新世界でも通用すると思い込んでしまうよくあるバカの思考。
「森探索の奴等がアジトを見つけなかったら、街中に根城を構えてることになる。船の中を未だに使ってくれてたらいいけど、そうもいかないだろうな……」
(街の人たちの避難を優先させて行わないと戦えないな。特にオヤジの能力は広範囲に影響ありまくりだし……他にも周りが見えなくなる奴等はいるし……)
次の指示にレオーラが思考を飛ばしていると、突然甲高い叫び声が上がった。二人は慌てて、しかしバレないように最低限の注意は払いながら地上を見下ろした。
「まったく、労働力にもならない上に通行の邪魔とか、ガキは良い御身分ですね~?」
「は、はなして」
「ねえちゃ、にげ」
「キミがお姉さん? ダメだよ弟君の面倒はちゃんと見なくちゃ」
弟の頭を鷲掴みにして持ち上げた男が、泣きながら弟の足を引っ張る姉をニタニタと見下ろす。それを見てカッと頭に血が上ったフレイアが柄に手をかけた瞬間、彼女の頭に銃口が突きつけられた。