第8章 Incomplete
「はい、じゃあ皆んな寝ないように聞いててね」
モビー・ディックを離れて1日経とうという頃、レオーラが船の先頭に立って声を張り上げた。出発に際して不規則な生活になっていた為か、数人の肩がレオーラの声でビクリと大袈裟なまでに震えている。それを尻目に欠伸を噛み殺してレオーラを見上げると、彼は普段と変わらない笑みを浮かべながら喋り始めた。
「そろそろ目的のノーバ島につく。でも、何かあった場合を考えて港にはつけない」
「何かって?」
「何でもだよ。島が知らない海賊に占拠されている然り、島民が突然襲ってくる然り、とにかく今は隠密行動に徹する。そのための少数行動だからね」
(ああ、だから2番隊が選ばれたのか。)
合点がいってフレイアは軽く頷いた。今の2番隊は隊長のレオーラの気質ゆえか基本的に普段は大人しく、命令違反を行う者がほとんどいない。隠密行動を行う上で大切なのは指揮系統がはっきりしていることと、独断専行がいないことだ。
(まぁしたところでレオーラに背後から麻酔銃を撃たれるのがオチだろうけど)
怒らせると怖いからなぁと苦笑いしつつ、上陸後の指示を出すレオーラを見る。真剣な眼差しで聞く者から半目で起きているのか怪しい者までいるが、皆彼の方をちゃんと見ているあたりお行儀は比較的良いことが伺える。
(オーロ・ジャクソンだったら確実に見られない光景よね……そもそもシャンとバギーが目の前でちょっかいかけ出すし)
不意に浮かんできた二人。もう一年会っていない事実に驚きながらフレイアはフッと笑みを零した。自嘲を含んだその笑みを、フードを被ることで隠しながらレオーラの話を流し聞きする。
(悩むとホームシックになるのは変わらないのよね……成長してない)
「……と、いうことで、向こうに付いたら今言ったグループごとに動いて。不測の事態があればすぐ僕に指示を仰いでね。独断専行で死にましたとか面白くもないから」
雑にそう締めくくったレオーラは解散を宣言し、黙ってフレイアのほうに歩いてきた。
「おい末っ子、ちゃんと聞いてたの?」
「聞いてたわよ。私はレオーラと一緒に街で情報収集でしょう」
「はい、よく出来ました」
冗談めかしてそう言うと、隣に腰を下ろす。その横顔をじっと眺めながらフレイアは眉を顰めた。