第8章 Incomplete
「その、マルコって理想としてる姿とか目標ってある?」
「オヤジに一生ついていくこと」
「……ですよね」
「……なんかあったのかよい」
うーんと唸りながら腕を組むことフレイアにマルコが尋ねると、ポツポツと経緯を話し出す。それをご飯を食べながら聞くマルコは、時々相槌を打ちながら彼女の顔をじっと見る。
「それで、とりあえず皆んなに似たような質問をしまくってる次第です」
「ふぅん、まぁ事情はわかった」
トーストを齧りながら数度頷くと、飲み込んでからフレイアに向かって水の入ったコップを差し出す。
「まぁビスタがどういう意図で言ったのかおれに正確なことは言えねェけど、多分あいつが言いたかったのは『剣聖』の背中を追ってるだけじゃ『剣聖』を超えられるわけねェってことだと思うよい」
「それは、そうかもしれないけど……」
歯切れ悪く言葉を紡いで視線を逸らしたフレイアはコップを手で弄ぶ。その様子を見ながら、マルコは最初に電伝虫を通してファイが言っていたことを思い出していた。
(父親の……師匠の呪縛ねェ……)
物心ついた時から世界最高峰と謳われる剣を見続けていた彼女にとって、強くなるということは彼のいるステージに立つということと同義。しかし彼の背中を、理想を見続けているうちはそれを超えていくことなど出来ない。理想はその人間にとっての天井になるから。
(思ったより重傷だねい)
ハァ、と溜息をついて最後の一口を胃に収めると、未だ俯いて口を噤んでいるフレイアに視線を戻す。じっと考え込んでいたフレイアは視線を感じたのか、気まずそうに笑った。
「……もう少し考えてみる」
「それがいい。簡単に答えが出るもんじゃねェからな」
「うん、ありがとう。食器下げるね」
「ありがとうよい」
僅かに微笑んで部屋を出ていく背中を見送り、マルコは小さく溜息をついた。