第8章 Incomplete
「どんなって、そんなもん考えたことねェよ」
「ええ……それじゃあダメなのよ」
「んなこと言っても、おれが剣を選んだのは一番しっくりきたとか言う理由だし……お前やビスタみたいに剣に拘ってもないしな……」
「強い人間の台詞とは思えない……」
フレイアの言葉にエルトンは不思議そうに首を傾げた。そのままフレイアを見上げると、真顔で口を開く。
「おれは喧嘩に勝てればなんでもよかったんだよ」
「……」
「そりゃあ、覚悟とか目標とか色々ある奴の方が強くなれんのかもしれないけどさ……少なくともおれは、そんな御大層なもので強さのすべてが決まるなんて思ってねェし、これからもそんなもの持つ予定はないな」
ニヤリと笑って寝ているクルーを引っ叩くと、飛び起きた男にさっさと食堂に行けと指示を出す。その背中を放心したように見つめるフレイア。
「ほーら、お前も朝飯食べて来い」
軽く頭を撫でて言うエルトンの顔を見て、フレイアは軽く頷いた。
「どんな剣士になりたいか、ねェ」
独り残った見張り台で、透き通るような青空を見上げながら呟く。腰に差した自分の剣を軽く撫でていると、浮かんでくるのは幼馴染の顔だけだった。
「うーん、分からん。剣を振れば敵は死ぬ。敵が死ねば味方は生き残る。その罪は自分で背負う。単純なことなのに」
剣は手段であり、強さは結果。いちいちそれに理由は求めない。ただ、生きるために剣を握った彼にはそれ以上のことなどなかった。
「大切な誰かがおれの強さによって生存してくれればいい……本当にただそれだけ。それだけでいいだろう。ん? つまりおれは『誰かのための剣士』になりたいってことか?」
腕を組んでしばらく考え込むと、渋い顔で深い息を吐く。自分よりはるか上空を飛行する鳥を追うように手を伸ばして空を掴んだ。
「難しいことは考えなくていい。ただ、あの町が出られたらそれでよかった」
「なーに懐かしい話をしてるのさ」
「……レオ」
背後から聞こえた声に視線だけ向けると「よっこらせ」と言いながらレオーラが見張り台の中に入ってきた。珍しく腰丈のマントを外して薄着をした彼は軽く腕をさすりながら笑った。
「フレイアが『エルを怒らせたかもしれないから見てきてあげてほしい』ってさ」
「別に怒ってない」