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鏡面【ONE PIECE】

第8章 Incomplete


「さて、始める前に一つ確認がある」
 お互い抜き身で対峙すると、ビスタは向かい立つフレイアに尋ねた。
「お前は……『剣聖』のようになりたいのか? それともひとりの剣士になりたいのか?」





 僅かにさしてきた太陽の光で目を覚ました。時計を見て普段通りの時間であることを確認すると、フレイアはベッドから降りた。途端に脚に鈍い痛みを感じてそのまま座り込んだ。
(ああ……身体が重い)
 なんとか立ち上がってベッドの端に座ると、隣のベッドで寝ているマルコが見えて微笑んだ。規則正しい呼吸と健やかな寝顔を見る限り、2日でもう殆ど回復していることがうかがえる。
 流石に大部屋に放り込むわけには、と個別の病室の一つをあてがわれていたフレイアは、普段より多い怪我人にてんやわんやになっている船医を見かねてマルコは自分が診るといって移動させたのだった。
「……明日には私達は移動開始だし、これなら安心して手放せるわね」
 疲労で重い体を引きずりながら身支度をすると、フレイアは甲板に出て行った。不寝番だった者達が欠伸をしているのに挨拶をしながら、メインマストの見張り台にするすると登っていく。
「ああ……」
「おはよう」
「ああ……おやすみ」
「まだ交代の時間じゃ……って寝てるし」
 今にも閉じそうだった目を完全に閉じて眠る若手のクルーに溜息を吐いて見張り台の中に入る。しゃがんで寝ているクルーを踏まないよう気を付けながら朝日の滲む海岸線を見ると、自然と頬が緩んだ。
「……私は、何になりたいか、か」
 昨晩から始まったビスタとの稽古の最初に問われたことを思い出して目を細める。答えられないまま「じゃあ保留だ」と言われた問いかけ。保留ということはいつかまた襲って来る問題だ。いつまでも放置してはおけない。
「……お父さんは理想であって、お父さんみたいになりたいわけではないし……でも理想ってそういうことなのかな」
 そもそも父親を尊敬している点は剣術に関する点だけ出しな……などと少々失礼なことを考えながら、少しずつ昇っていく太陽を眺め続けた。
「……あれ、フレイアどうした?」
「エル……エルはどんな剣士になりたい?」
「質問に質問で返すな」
 交代の時間になってやってきたエルトンに真剣な眼差しを向けるフレイアに、エルトンは足元の男を起こしながら適当に返す。
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