第8章 Incomplete
「……私に出来ることはないのかしら」
「ねェよい」
きっぱり断言したマルコは真剣な眼差しをフレイアに向ける。その視線に絡み取られてフレイアは気まずそうに見つめ返した。
「……悪いな。エルトンに触れないで欲しいって言われてんだよい」
「そっか」
「家族だからってなんでも見せなきゃなんねェわけじゃない」
「うん、知ってる」
自分も父親のすべてを知らない。母親のことも祖父も……知らないことの方が多い。知りたくないと言えば嘘になるけれど、知ることで変わるものがある。知ってしまえば後戻りは出来ない。
(全てを受け入れることなんか私にはできない)
母親の指輪を握り締めると、フレイアは胸にたまった何かを吐くように深く息を吐いた。頭で鳴り響く海の声はとても穏やかだった。
「……私はお母さんにはなれない」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもないわ。レオのことは任せて。暴れるのは得意だから!」
「暴れて船を壊すなよい。おれは5日後まで多分ここから出してもらえねェからな」
「ははは、エルが悪戯し放題ね」
「……」
フレイアの言葉に深い溜息を吐くと、マルコは苦虫を噛み潰したような顔で天井を睨む。
「心配で寝てる方が体に悪い」
「ははは」
違いない、と笑うフレイアにつられてマルコも声を出して笑った。ひとしきり笑うと、どこか吹っ切れたような顔でフレイアはマルコのベッドに腰掛ける。
「覇王色の覇気ってどうやったらコントロール出来るようになるのかしら」
「おれは使えねェからな……精神的成長次第らしいが」
「道理でエルが使い熟せてないわけね」
「違いない」
「聞こえてるぞ、お前ら」
声の方を見ると、カーテンの隙間から片目が覗いている。不満そうなオーラがカーテン越しに伝わってくるのを感じてフレイアは小さく笑った。
「食料庫からひとの食べ物を取るなんて子供じゃない」
「腹減ってたんだよ、蒸し返すなって。レオは忘れてくれてんだからさ」
もう終わったことだとばかりに笑うエルトンに軽く溜息をつく。彼女にとっては全く終わっていない案件である。
「ところで、何しに来たのよ」
「船直すのが終わってねェって怒られた。行くぞ」
「……忘れてた」