第8章 Incomplete
「そう、じゃあ今回はレオと一緒に行動なのね。楽だわ」
「おいおい失敬な」
3番隊じゃ不満かよ、と眉を顰めるエルトンに困ったような微妙な表情を返す。
「隊長は掴み所がなさ過ぎて疲れる」
「否定が出来ねェ……」
副隊長のエルトンがそう言ってしまえばお終いというものだ。頬を掻きながらひきつった笑みを浮かべるのを見て、フレイアも乾いた笑い声をあげた。
「先んじて島にむかわないといけないから、準備をしておいてね」
「了解」
「フレイア、こいつのこと頼むな」
「レオじゃないんだから」
「いや、こいつ前衛が仕事しないと前に出てきて危なっかしいからさ」
微笑みながらレオーラの肩を叩くと、本人は不満そうな視線を向ける。
「おれありきで戦術とかバランス考えた代償だから仕方ないんだけど」
「僕の体質もでしょう」
両目を薄っすら開いてエルトンを睨む。血のように赤い右目と薄い灰色をした左目、初見の人間が二度見するその目に見つめられながらエルトンは笑う。
「確かにお前の目は特別だけど、別に近距離に向かないわけじゃないだろ? 結局バランス考えた結果じゃん」
「……ま、いいけどさ。フレイアが暴れてくれたら僕がやりやすいのは事実だし」
すぐまた普段の糸目に戻ったレオーラはそう言ってフレイアの頭を撫でた。少し寂しそうな色を含んだ笑みをみてフレイアはマルコをちらりと見たが、彼は肩を竦めるだけで何も言わなかった。
「フレイアは普段通りにやってくれればいいよ」
「はーい」
「……レオーラ、他の奴らにもその話をしてきたほうがいいんじゃないか?」
マルコの言葉に肯定を返すと、レオーラはエルトンを連れて出て行った。残されたフレイアは小さく息を吐きながら椅子に深く腰掛ける。
「エルトンとレオーラに挟まれて疲れないのかよい」
苦々しい笑みを浮かべるマルコにフレイアも曖昧に笑って見せる。カーテンの向こうが随分静かになったのを感じながらぽつぽつと言葉を紡ぐ。
「レオってお兄ちゃんみたいに振る舞ってるけど、エルにべったりなのよね」
「あいつらは複雑なところがあるからな。程々に相手しとけ」
「分かってる」
自分が踏み込んでいい領域ではないと彼女も十分わかっている。しかし、時折見せるレオーラの表情が父親と重なる。それだけが彼女の心にひっかかっていた。