第1章 見習いトリオ
「当たり前でしょ」
あっけらかんと言い放つと、身体の正面をシャンクスの方へ向ける。髪より幾分か明るい二つの青の中に己を見ながら、シャンクスもフレイアに向き直った。
「絶対に負けないから」
「それはこっちのセリフだ。お前、おれに勝ったことないだろ」
「数年先に生まれたアドバンテージのせいだもん」
「はっは」
笑い飛ばすシャンクスにムッと唇を尖らせる。今の力の差はここで怒ったところで覆らない。自らと敵の力の差を読み間違えた者から死んでいくのだと、ファイから耳に胼胝ができるほど聞かされてきた以上、結果で見返すしかないことをフレイアは正しく理解していた。
「じゃあさ、もし真剣勝負で私が勝ったらウチのクルーになってね」
「おお、負けたら従ってやる。言っとくが、お前も負けたらおれの言うこと聞くんだぞ」
「分かった!」
(欲を言えば、競い合うより最初から一緒に旅ができた方が楽しそうなんだけどなァ)
この本音を言えば、張り切った顔で海を見つめる顔はどんな表情を見せるのだろうか。歳相応のあどけなさを残しつつ、少しずつ少女からの脱却を感じることが増えていく。自分の本音は本当に、共に旅がしたいだけなのだろうか。
「どうしたの? シャン?」
「……なんでもねェよ」
父親譲りの切れ長の目つきが自分の方を向いたので、シャンクスは誤魔化しながら横に並んで海を見つめる。
「おいフレイア、能力を使っただろう」
「え、な、なんのこと?」
突然の声に二人が振り返ると、ファイが酒で赤らんだ顔をしながら歩いてきた。少し怒っているよう見える様子に冷や汗をかきながらとぼけてみせたフレイアだが、父の眼光の鋭さに負けて直ぐ激しく頷いた。
「……海は皆を平等に許容する」
「え?」
ファイの淡々とした言葉に、怒られると思った二人はきょとんとした顔でファイを見上げた。
「お前の母親……マイアがよく言ってた言葉だ。覚えておけ」
「う、うん……?」
「おれにはよく分からんが、海の民が力を制御する上での心構えのようなものらしい。あまり教えてやれることが無くて悪いな」
「お母さんが……」
写真でしか見たことない母の顔を思い浮かべながら、フレイアが自分の手を見つめる。