第8章 Incomplete
「あの髪が赤いほうが怪しいか」
「シャンもバギーも違います!」
「じゃあ別にいるのか?」
「私が好きなのは副船長です!」
フレイアの言葉にティーチはきょとんとした顔をした後、直ぐに大きな声で笑い始めた。
「ゼハハハハ、よりによって『冥王』か!! 流石『剣聖』の娘はスケールが違ェな!!」
「ああ、うるさいわね! 振られたからもう諦めたの!」
フレイアが少し頬を赤らめながら怒鳴ると、笑いが止まらなくなった様子のティーチ。それに頬を膨らませると、傷を強く叩いて立ち上がった。
「お大事に!!」
救急箱を持って医務室への扉を開く。すると、扉が開くのに合わせて十人ほどのクルーが勢いよくフレイアの方へ倒れてきた。反射的に避けると、倒れてきた者達はバツが悪そうに微笑んで彼女を見上げる。
「ああ、いや、これは」
「……あんたら全員傷口抉られたいの?」
絶対零度の声音にその場にいた者達の背筋が凍りついた。慌てて医務室の中で大人しく列を作り出す者達を見て、深い溜息を吐く。騒いでいる内に居なくなっていたティーチを頭の中で殴りながら、フレイアはマルコの寝ているベッドに近寄っていく。カーテンを開くと、笑いをこらえているエルトンが真っ先に目に入ってきた。
「あ、フレイア、ははは」
「……一回死んでみる?」
「あああ、ちょ、ま」
「フレイア!! 病室で暴れるな!!」
「チッ」
今にも愛刀を抜きそうだったフレイアは船医の言葉で舌打ちをしながらベッド脇の椅子に腰を下ろした。レオーラの背中に瞬時に隠れたエルトンはニヤついた顔を隠そうともせず、彼女を見た。
「お前年上好きか?」
「五月蠅いわね! いいじゃないレイさんカッコいいんだから!! エルなんか足元にも及ばないわよ!!」
「なにを」
「否定できないでしょ」
レオーラにばっさり切り捨てられると、不満そうな顔をしながらも反論の言葉が浮かばないようで口を噤んだ。一連の様子を眺めていたマルコは、クスリと小さく笑ってフレイアを見上げた。
「他の連中の手当ては?」
「もう大分終わったから心配しないで」
「そうだぞ、マルコは5日以内に怪我をある程度回復させろよ」
「分かってるよい」
「5日?」
話についていけないフレイアがレオーラを見ると、彼はゆっくり会議の内容を話し始めた。