第8章 Incomplete
マルコが気がかりだったこともあり、フレイアは手早く正確に怪我人達をさばいていく。その場にいる大半の治療を終え、軽く肩を回していると、大柄な男が向かいの椅子に腰かけた。
「お前は大丈夫なのか、フレイア」
「平気よ。先に手当てしてもらったし」
「ゼハハハ、流石だな」
「手元が狂うから大きな声で笑わない!」
鋭くそう言って、フレイアが男の手のケガをみる。そこそこ大きな切り口で、縫うべきか判断を迷うところだった。彼女が悩まし気に眉をひそめているのを見て、男は再び笑った。
「薬を塗っとけば治る」
「そうはいかないわよ。雑菌でも入ったら大事よ」
「いいじゃねェか。また中の列に並ぶのは面倒だ」
「……」
ジトっとした目で睨むも、男は全く意に介していないようで笑うばかりだ。結局フレイアのほうが折れて、薬の入ったケースを取り出した。
「少しでも悪化したと思ったら診せるのよ?」
「了解」
「……まったく」
「フレイア」
軟膏を付けた指を滑らせていると、男の背後から聞きなれた声が聞こえてきて首だけを出す。エルトンとレオーラが手を振りながら近づいてくるのに笑顔だけ返して、治療に意識を戻した。
「隊長殿とエルトン、会議は終わったのか?」
「ティーチ、傷結構大きいじゃん。珍しいな」
「ちょっとな」
「フレイア、少し話があるから終わったらマルコのベッドのところに来てくれる?」
「ええ、わかったわ」
もとより向かうつもりだったため、すぐに了承する。レオーラは満足そうに頷いて医務室に入っていった。エルトンもしばらくティーチと呼ばれた男と話した後、その背中を追っていった。
「……何かあったのかしら」
「フレイアはあの二人やマルコと仲がいいな」
「最初に付き合いができたから話しやすいのよ。エルは精神年齢が昔馴染みと変わらないから楽だし」
「ああ、ロジャーの船の見習い二人か」
「そうそう」
懐かしくなって目を細めていると、ティーチが顔を寄せてにやりと笑った。
「どっちかが恋人か?」
「違うわよ。残念」
治療終わり、と包帯の上からフレイアが傷を軽くたたいた。ティーチは笑みをそのままに顎を撫でる。