第8章 Incomplete
「そうと決まればフレイアに伝えてきてやろうぜ」
「ああ、うん」
「レオーラ」
出て行こうとしたの2人の背中に白ひげの声が投げられる。呼ばれたのは1人なのに揃って振り返る2人に苦笑しながら、珍しく歯切れの悪い口調で話す。
「あいつを、フレイアのことを……気をつけてみてやっておいてくれ」
「え、ああ、了解……」
戸惑いながらも了承の返事を返して部屋を出ていく。残された白ひげは眉間にシワをよせて、懐から一枚の紙を取り出した。海軍のマークが印刷された紙を煩わしそうに眺め、再びしまい込む。頭に浮かんできた少女の顔を溜息と共に追い出して、ゆっくり目を閉じた。
先ほどとは打って変わって、人の気配の全くしない部屋の中で波の音だけが静かに響いていた。
「おいフレイア、包帯の予備は」
「ここに持ってきてる」
「おーい、血が止まらないから先に止血だけしてくれ!」
「ちょっと待って、今行くわ!」
「おいチビー」
「最後尾に戻されたいの?」
隊長達が会議をしている間も騒ぎが収まらない医務室。少しずつ減ってきているものの、診る側の人間が足りておらず、基礎しか分からないフレイアも部屋中を駆け回っていた。
(海楼石の銃弾、やっぱりマルコにしか使われてないわね)
船医が埋まっていた弾丸を抜いたのを眺めながらフレイアは奥のベッドに視線を向けた。能力を使えばさっさと治るものの、船医の「若者が能力に頼りすぎるんじゃない!」の言葉で今は自己治癒任せになっていた。
「おいフレイア」
「あ、ごめんなさい」
「……ここはいいから外にいる怪我人診たらマルコの様子を一回見て来い」
「え」
「あいつもお前と同じでベッドにじっとしてられる質じゃないんだよ昔から」
妙齢の船医が困ったものだという顔で言うのを聞いて吹き出した。いいことを聞いた、と言いながら救急セットを持って廊下に出た。廊下では軽傷の者達が、お互いに治療しあっているものの、大半が適当なため、一歩間違えると大事になりそうな様相だった。
「ああ、傷口をそんなやり方で焼かないで!」
「お、フレイアが来た」
「唾つけときゃ治るって」
「ぶん殴るわよ!!!」