第8章 Incomplete
フレイアがそう言って消毒液を構えるマルコから瓶を奪い取った時だった、勢いよくベッドの周りを覆っていたカーテンが開く。
「ここに居たか、フレイア」
「ビスタ、どうかした?」
「レオーラとエルトンは?」
「レオは船医の手伝いで、エルは多分列に並んでるけど……ビスタ、怪我は?」
「軽傷だ。気にするな」
ニヤリと笑ったビスタに黙って歩み寄ると、無言でフレイアが腕を軽く握った。殆ど力が込めらていないそれに過剰に反応したビスタに向かって、フレイアは笑いかける。
「そこに座って」
「いや、おれはオヤジに頼まれて」
「座って」
まがまがしい気配を背負って笑っているフレイアの様子に、ビスタも折れて袖をまくる。
「オヤジがどうしたって?」
大人しく治療されている彼に向かってマルコが声をかけると、首を横に振る。
「お前は治療に専念しろ、ということだ……」
「それは……分かってるよい」
不服そうな顔をするマルコを見て、フレイアとビスタは小さく笑う。
「早く治した方がオヤジも喜ぶ」
「ああ、分かってる。何があったかだけ教えてもいいだろ?」
「おれも知らないんだ。オヤジに二人を呼んで来いと言われただけなんでな」
「私は?」
「お前はここでレオーラの代わりに船医の手伝いだ」
「ちぇ」
少し残念そうな顔をしつつ、ビスタの怪我の治療を終えたフレイアが立ち上がった。
「じゃあ、レオと交代してくるわ。ビスタはエルを探して」
「分かった」
カーテンの向こうに消えていく二人を見て、マルコはそっと息を吐いた。
「……何か起こる前に治さないとな」
体力がかなり削られているため普段より遅いが、それにしても能力的に回復は早い方だと自負がある。直ぐに完治させて復帰することを固く決意して目を閉じた。