第8章 Incomplete
エルトンに石を返すと、立ち上がって軽く伸びをする。原因は分からないが、考えても分からないものは仕方ない。自分の身体のことを知りたくても、彼女にはその術がなかった。
(有力なのはおじいちゃんだけど、お父さんが会わせてくれるわけないしな……)
嘆息するフレイアを三人は首をかしげながら眺める。
「あ、エル、怪我は?」
「ああ、忘れてた……フレイア、お前もさっさと治療しろよ」
上半身裸になって傷口をレオーラに診せながらそう言ったエルトンに返事をして、フレイアは腕をまくる。
「あれ……」
周りに血がこびり付いているものの、もう殆ど塞がった傷を見て思わず袖を元の位置に戻す。
「……フレイア、おれが診てやるからこっちこい」
その様子を見ていたマルコが真剣な声でフレイアを呼ぶ。黙って頷くと、ベッドの脇に膝をついて腕を突き出した。
「……深くはないねい。縫う必要もないから消毒して包帯まいとけ。足は?」
「同じ感じ、かな」
痛みをほぼ感じない足のけがをズボン越しに撫でながら言うと、マルコは黙って頷いた。
「エルはダメだね、これは縫わないと……」
「ええ、マジかよ……」
「ほら、列に並びに行って。僕は他の連中みてこないと……マルコ、軽いならフレイアの治療頼むね」
「分かったよい」
仕切り用のカーテンを閉めて二人が立ち去ると、フレイアは不安そうな顔で胸元のリングを握り締めた。
「……原因は例のやつかい?」
「た、多分? 分からない、けど」
「怪我が早く治るに越したことはないが……」
「……」
「自分で自分の身体が分からないのは不気味か?」
「うん……」
俯いて小さな声を出す少女の頭をマルコは軽く撫で、救急セットから消毒液を取り出す。
「おれも悪魔の実を食ったばかりの時はそんな感じだったよい」
「……いつから慣れた?」
「未だに時々感覚が分からなくなる。だからそんな顔しなくていい」
笑って消毒液をぶっかけたマルコにフレイアは声のない叫び声をあげる。涙目になりながら目の前の男を睨みながらも、小さく笑った。
「ありがとう」
何も言わず、先程とはうって変わって優しい手つきで包帯を巻く。
「ま、他の奴らにバレないようにだけ気をつけな」
「うん」
「よし、足の方もみせろ」
「いいわよ、こっちは自分で出来るから重傷者は寝てて」