第8章 Incomplete
白ひげと別れ、医務室に向けて歩みを進めるレオーラは、近づくほどに鮮明に聞こえる相棒の声に軽く溜息を吐いた。
(あいつは静かにしてられないのかね)
真新しい医務室の扉を開けると、消毒液のきつい匂いと共に、所狭しと怪我人が順番待ちをしているのが目に入った。断りを入れながらエルトンの声の方へ進むと、エルトンとフレイアが一番奥のベッドの脇に立っている。
「なに騒いでるのさ」
背後から声をかけると、エルトンが爛々とした顔で振り返った。
「マルコが銃弾を受けた理由が分かった」
「なんだったの?」
「これだよ」
投げられた石のようなものをレオーラがキャッチする。荒く大きな丸に削りだされた黒っぽい石を光に翳したり指の腹で撫でたりと、しばらく弄んでいたレオーラがハッとした顔で口を開く。
「もしかして海楼石?」
「正解」
「なるほどね……マルコに効くわけだ」
「面白い発想だよなァ……剣の形に削れたりしないかな」
「お前……まさにそれで怪我した奴の目の前で面白いってな……」
ベッドの上で苦虫をかみつぶしたような顔をするマルコをみて、エルトンは「悪い悪い」と手を合わせる。
「海楼石の加工は容易じゃない……かなり腕のいいワノ国出身の技術者の手によるものかな」
「……ねェ」
フレイアが困惑した顔でレオーラを見上げる。
「海楼石ってなに?」
「え、お前知らないのか? 能力者なのに!?」
「……不本意ながら」
「まァ……普段お目にかかるものじゃないからね。普段使いしてるのなんて海軍くらいのもんでしょ」
体感してみな、と呟いてフレイアに向かってレオーラは石を投げた。すると、受け取ったフレイアがその場でへたり込む。瞬いて驚く様子にエルトンは笑って石を取り上げた。
「面白いだろ。海と同じエネルギーを発する石でな、海に弱い能力者相手には強力な武器になるんだよ。海軍が手錠なんかに使ってるくらいだ」
「フレイアも能力者なんだから気をつけろよい」
「う、うん……ねェもう一回触らせて」
「え? まァいいけど」
座った状態で受け取ったフレイアは、難しい顔をしながら石を眺める。
(確かに力が抜けて、海の中にいるみたいだけど……なんだろ、その割に心は穏やかだし、こころなしか体調が良くなってるような……?)
「フレイア?」
「うーん、ありがとう。大丈夫よ」