第8章 Incomplete
目の前の男と剣を交えていたフレイアは、男越しにマルコの様子を見て眉を吊り上げた。
「その男に手を出すなって言ってんのよ!!!」
低く通る声でフレイアが怒鳴った瞬間、マルコの周りにいた男達がばたりと倒れた。
「フレイア、お前」
マルコも目を白黒させていると、思わず縁を掴んでいた力が弱まり身体が海の方へ引っ張り込まれる。
(くそ、どうすれば)
目前にせまる海面にマルコが目を閉じる。しかし、備えていた衝撃は来ず、恐る恐る目を開く。
「よ、大丈夫か?」
「エルトン……助かったよい」
エルトンが上手くマルコを受け止めながら笑っていた。敵の小型船の上には、彼が倒したらしい男達が地に臥せっている。地面にマルコを降ろすと、手早く止血帯を巻いていく。
「にしても、怪我するなんてお前らしくないな」
「おれにもさっぱりだ」
「ま、戦闘ももうすぐおわ」
エルトンの言葉を遮るように大きな音を立てて、敵船二隻が破壊された。目と鼻の先で爆発したように粉々になった船と真っ二つに割れた船を見て、二人はモビー・ディックの方をみる。甲板でひときわ目立つ自分たちの船長の姿と、少し離れたところで刀を鞘に仕舞う少女。
「終わったみたいだから戻るか!」
「……そうだねい」
「マルコが攫われかけて二人共怒ってるんだよ。そんな顔すんなって」
やれやれといった顔をしているマルコに向かってエルトンが笑う。それに肩を竦めると、マルコはそっと地面に寝転んだ。血を失いすぎて蒼くなった彼の顔を一瞥すると、エルトンはそっと自分の着ていたシャツをマルコにかける。
「ちょっと待ってろ。すぐ戻るから」
「この程度で死なねェよ」
小さく笑い声をあげるマルコを見てエルトンも唇を持ち上げると、モビー・ディックに向けて船を進めた。
「マルコ!」
「船医! こっちマルコを先に」
「こっちの担架に乗せろ!」
船をつけるとすぐに慌ただしく医務室に運ばれていくマルコ。その様子を心配そうに見つめるフレイアの背中をエルトンが軽く叩いた。
「そんな顔すんな。意識もしっかりしてたから大丈夫だよ」
「ええ……」
「それより、お前も覇王色使えたじゃねェか。お揃いお揃い」
「子供か」
はしゃぐエルトンの頭をレオーラが小突くと、そのまま彼の肩を握り締める。途端にエルトンが顔を歪ませて「いてて」と主張する。