第8章 Incomplete
いざ戦闘が始まると、フレイアの心配をよそに白ひげ海賊団がいつも通りに敵を圧倒する展開となった。その様子に安堵しながらも、彼女自身は拭いきれない不安感からずっと神経を尖らせていた。
(船から落ちてる人は無し。捕まってることもない。船の中に爆弾が仕掛けられていることもない。一体、何が気に食わないのかしら)
目の前の敵を苛立ち紛れに切り伏せながら、もう終盤に差し掛かっている戦況を見ようと敵船の二階デッキに飛び上がる。その場にいた狙撃手を蹴り落として、甲板の入り乱れている人々見下ろした。すると、少し離れたところに小型船が停泊しているのが目に留まった。
敵船の海賊旗と同じマークの入ったそれにフレイアは目を細め、沈めに行くかと動き出す。気配からして三人ほどが乗船している。逃げるならば追う必要はないが、近くで停泊している以上、何か不審な動きを見せる可能性は十分にある。
潮風に藍色をなびかせながら甲板で適当に敵をあしらい、小型船の方へ走る。その時だった。
フレイアのすぐそばにいた男が空に向けて変わった形の銃を一発撃った。どこを狙ってるのよ、と眉を顰めたのも一瞬、耳がうめき声を拾った。
「……! マルコ!」
嘘、なんで、と疑問符が頭をめぐる。しかし、不死鳥の象徴的な青い炎に包まれていた腕は元の人のものにもどり、腹を抑えているマルコ本人も何が起こったのか分からないといった顔つきだ。あやうく海に落ちかけたのを、船のへりに着地して事なきを得る。
その様子にホッとしながらもフォローにフレイアが駆け寄っていくと、突然伸びたロープがマルコの腕に絡みつく。
「くっそ!」
「マルコ!」
恐らく例の小型船から伸びているであろうロープに歯噛みしながら、立ちふさがる者達に刃を向ける。
(周りに私しかいないとか、計算されてるんだろうけど完璧に舐められてるわ)
「邪魔よ!」
オーロ・ジャクソンから落ちた日以来の大人数相手の戦闘に、僅かに高揚感を感じながら確実に数を減らしていくフレイア。彼女がおもったよりやる人間だと気付いたのか、数人が船の縁に捕まって耐えているマルコの方へむかって行く。
捕まっている彼の手に短剣を向ける一人の男。抵抗したいが、傷から相当量の出血があり、耐えているだけで精一杯のマルコが悔しそうに唇を噛む。
「やめなさいよ……」