第8章 Incomplete
盛り上がるクルー達の中で、フレイアは眉を顰めて海を見ていた。首から下がった指輪を握り締め、海の声に耳を傾けているが、どこか不穏な空気を感じる。
「どうした?」
背後から近寄ってきたエルトンにフレイアは視線を海に向けたまま応える。
「嫌な予感がする」
「……強いのか?」
「どうだろう。どんなに強くても、この海賊団に敵うところなんかそうないわ。だから、なんかもっと違うものだと思うんだけど……」
海がざわついている、とは言えなかった。フレイアはこの船に乗るに際して船長の白ひげと、自分の担当として世話をしてくれた船医であるマルコにだけ海の民の話を打ち明けていた。父親から公言するなと言い含められていたが、もし以前のように体に不調が現れた時、対応できる人間が全くいないのは困る。慎重に人選を行った末の二人であった。
(エルもレオもビスタも……皆信用してないわけじゃないけど、知ってる人間が増える程に危険が増すのは避けられないものね……)
心配そうなエルトンの瞳に罪悪感を感じながらも、フレイアは「大丈夫よ」と笑ってみせた。
「なら、いいけど……何かわかったら言えよっと!」
「わかってるわよ……!」
飛んできた大砲の弾を2人揃って横に受け流すと、フレイアはそのまま【湖月】を敵船の1つに向かって飛ばす。一番前のマストが一瞬の間を置いて倒れていくのを見ながら、フレイアは少し不服そうな顔をする。
「やっぱり二本まとめて出来ない」
「お前父親目指すのはいいけど、それただのゴリラだぞ」
「違うのー! ちゃんと風とか色々使えば私でも出来る……はずなの!」
「今はまだ無理だろ〜チビだし」
「いいこと教えてやろうか。お前さんフレイアと約10センチしか変わらないよ」
「え?」
隣に飛んで来たマルコの言葉にエルトンが真顔になる。ぎこちない動きでフレイアの隣に並んで爪先から頭のてっぺんまで眺めると、黙って頭を峰打ちした。
「頭が高い!!」
「エルが小さいのが悪い! まだ165だもん」
「11歳が生意気な!!」
二人が言い争いを始めると、足元に2発の銃弾がのめり込む。
「君たち敵船が迫ってるの見えてる?」
「ハイスミマセン」
聞こえるはずがないのに撃鉄を起こす音が聞こえた気がして激しく頷く。マストの上から狙われては勝ち目がない。