第8章 Incomplete
「フレイアー! エルみてない!?」
「見てないけど……何やったの?」
「食料庫のお菓子勝手にもっていったらしいんだよねェ」
トレーニングをしていたフレイアの元にレオーラが走りこんでくる。いつものことか、と呆れながら罪状を聞いたフレイアが、ピタリと体を止めて真顔になった。
「……それってこの間の島で私が買ってたチョコのやつ?」
「言いづらいけどそれだね」
「……」
無言で立ち上がったフレイアが刀を握ると、満面の笑顔でレオーラを見る。満点の笑顔なのに周りの空気が3度ほど温度を下げた気がして、レオーラは腕をさする。
「あの、見つけても程々に頼むね?」
「善処するわ」
そう言うや否や走り出したフレイアの背中を見送りながら、レオーラは乾いた笑いを浮かべる。「さて、殺されちゃ可哀想だから探すか」と呟いてレオーラがフレイアの部屋を出た瞬間、遥か遠くで大きな音がなって埃が舞っているのが見えた。
誰が、などと聞くまでもなく悲鳴と怒号が船中に響き渡る。
「うわああ! 待って!!」
「問答無用! あれ手に入れるのに私が何時間並んだと思ってるのよ!」
天井を貫いて甲板に出ていく二人を物陰に隠れながらクルー達が見送る。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったもので、誰も止めようとはしない。
(まあ、止める人間が)
「何やってんだよい!!」
「いるからってのもあるか」
クスクスと笑うと、レオーラは適当な人間を捕まえて船大工チームを呼ぶように言う。上から響いてくる喧騒を心地よいBGMのように感じながら甲板に向けて足を進めた。破壊音が止んでいるということは、もう説教時間にはいっていることだろう。
「天井に穴開けたのはエルよ!」
「おれが隠れてた倉庫の扉吹き飛ばしたのはフレイア!」
「おめェら子供か!!」
二人を正座させて呆れた顔をしているマルコ。周りでは既に修理道具を持った者達が動き始めている。
「だから程々にって言ったでしょう?」
「レオ! お前おれのこと売りやがって!」
「食糧庫のものを無断で持ち出したお前が悪い」
ばっさり切り捨ててマルコの隣に並ぶと、エルトンにむかって綺麗すぎる笑顔を見せる。
「僕の土地限定の酒も持ってんたんだから、この程度で済むと思うなよ?」
「……モウシワケゴザイマセン」