第7章 番外編 喧嘩するほど仲がいい
刃を突き合わせて拮抗していた力をフレイアが一方的に緩める。ぶれたシャンクスの刀をはらいながら手元を狙った攻撃を、シャンクスは咄嗟に彼女を蹴とばすことで回避する。
(弱いどころか……十分強い)
自分より10センチ近く小柄であろう少女とは思えないその腕前に純粋に感心する気持ちが三割。あとは全て……。
「おもしれェ」
口元に笑みを浮かべながらも真剣な眼差しをした彼の様子が物語っていた。やられっぱなしではいられないとばかりに、シャンクスが自分から仕掛けた。その剣先を器用に対処するフレイアと、生き生きと自分の剣を振るうシャンクス。いつしか野次馬から双方を応援する声が沸き上がっていた。
「フレイアの奴、相変わらず相手の力を利用するのは上手いな」
「おれが育てたんだからな」
「見聞色と合わさったら厄介になるぞ」
将来が楽しみだと上機嫌で観戦するロジャーの後ろで、ファイも珍しく素直に同意を返した。
「いつか、おれも超えてくれるか……」
「超えて欲しいのか?」
「師匠冥利につきるってもんだろ。おれは師匠がいなかったから、あくまで想像だけどな」
煙草に火をつけてそう言ったファイの隣でレイリーは静かに頷いた。
「恐らくそれで正しいさ」
激化していく若者の喧嘩を眺めながら三人の視線は遥か未来にあった。
「あの二人は大人になってもこうやって馬鹿みたいに争ってそうだな」
「ははは、違いねェ!!」
「止める奴らが哀れになるよ」
こんな喧嘩おれだったら放ってくな、と腕を組んで悟った顔つきをしたレイリーを見て二人はしれっと視線を交わす。
「哀れな役割してるやつの台詞は重いな」
「頑張れよレイリー」
「うるせェ!!」
二人の頭にレイリーの鉄拳制裁が突き刺さる。頭を押さえて撃沈した二人を尻目に、レイリーは甲板に視線を戻す。
甲板は既に血潮で濡れていた。どちらのものとも知れない血を浴びて、それでも手合わせを止めない二人に若いクルー達はちらちらと二階やミランダを見るが、全員ことなさげに戦う二人を見るだけだ。
「な、なあこれ誰かとめなくていいのか?」
「接戦だけどシャンクスの方が優勢っぽいからもう判定でな」
「でも船長たちも何も言わないし……」
「手ェ出すなよ」
こそこそ話していた若い者達の隣には、ギャバンがいつの間にか立っていた。