第1章 見習いトリオ
「おい、フレイアどうかしたか?」
「お前、無言で笑うなよ……薄気味悪い」
「ぶん殴るわよ」
バギーを軽く睨みつけると、慌てたように話題を変え始める。
「ところで、さっき面白れェ戦利品がどうとか言ってたな」
「ああ……”悪魔の実”があったんだ」
「なに、それ」
「詳しくは知らねェけど、海の悪魔の化身って聞いた事がある。食っちまったら”悪魔の能力”と引き換えに海に嫌われちまうんだとよ」
シャンクスの言葉を聞いて、フレイアの頭の中で警笛が鳴り響いた。強い拒絶の声に思わず頭を押さえる。すぐそばで聞こえるはずのシャンクスとバギーの声が遠くから響いてくる。
「フレイア!」
「シャン……」
ハッと我に返ると、心配そうな顔をしたシャンクスが右手を強く掴んでいた。僅かに乱れた呼吸を戻すように、もう片方の手がゆっくり背中をたたく。
「どうかしたのか?」
「海が」
「どうかしたのか? 明日はシケか?」
「分からないけど、凄く嫌な感じだったの。今は落ち着いてるけれど」
「ふーん。おれにはいつも通りの海にしか見えねェけどな」
軽く身を乗り出して真っ黒の海を覗き込むシャンクスの背中をぐっと掴む。
(海が絡むと途端に弱くなるんだよなァ)
普段より小さく見える妹のような存在に小さく笑いながら、シャンクスは安心させるようにフレイアのことを抱きしめた。すると、突然海面がうねり、二人に大量の海水が降り注ぐ。
「うっわ」
「けほ、こほ、ご、ごめん……ちょっとびっくりして」
「相変わらず上手く制御できてないのか」
シャツを絞りながら尋ねるシャンクスにフレイアがおずおずと頷く。そうか、と返事をしながら再び静けさを取り戻した海に視線を戻した。
フレイアの能力のことはよくわからない。海の声を聴き、海を自在に操る力なのだとファイから言われたときは非常に驚いたものだが、10歳のフレイアがその能力を使い熟している様子を見たことはなかった。海の声は常に聞こえているもので、操る能力は感情が高ぶった時だけ。能力は母親の血筋のせいなんだとファイは言っていたが、シャンクスが乗船した時には既に他界していた。
(ま、何があってもフレイアはフレイアか)
濡れた長い髪をひねって水気を切っている目の前の少女を見ながらシャンクスは頬を緩めた。