第1章 見習いトリオ
「はは、ごめんごめん。ところで、何の話してたの?」
フレイアが椅子をシャンクスとバギーの間に並べて座ると、バギーも椅子を立て直す。フレイアの問いかけに、一人酒を煽っていたシャンクスが口を開いた。
「自立した後の話をしたらバギーが笑いやがったんだよ」
「自立した後……?」
「なんだよ、お前ずっとロジャー船長やファイさんと一緒に居るつもりだったのか」
バギーの呆れを含んだ視線に慌てた様子で首を横に振る。
「いや、さすがにそんなことは考えてなかったけど、もう少し先のことだと思ってたな」
「ふーん。じゃあ、フレイアはどうしたいんだ?」
「え?」
「考えたことなかったなら今考えろ」
どこか真剣さを帯びたシャンクスの視線に腕を組んで考え込んだ。
(独り立ちか……あの過保護なお父さん相手に叶うのかな、そもそも。いや、今は叶うと仮定しなくちゃ始まらないか)
「まずは陸で生活してみたいかな」
「は? そんなことかよ」
「だって私、船の上で生まれてそのままだから、陸の定住生活ってしたことないんだよ!?」
「ああ、そういやそうだったな」
ロジャーの船で生まれ、その際母を喪ったフレイアはそのまま父親と共に船の上で生きてきた。そんな彼女にとっては陸での生活は一切未知の領域だった。
「あとは、グランドライン以外の海の声も聞いてみたいし、世界中の島も見て回って記録を残したい。私の人生一回で足りるかな」
「いいな、楽しそうだ」
「でしょ!」
笑いあうシャンクスとフレイアの隣で「わかってない」とばかりにバギーが大きく息を吐く。
「シャンクスといい、甘ったれたこと言いやがって。その考え方さえなきゃ部下にしてやってもよかったんだがな」
「え、嫌だ」
「ふざけんな! 考え方が違うから別々の道を好きに行きゃいいんだ。それが海賊だ!」
「はっはっは、てめェが海賊を語るのかよ……だがそうなりゃおれ達が後に海で会う時は殺し合いだぜ!?」
「ああ、それも海賊だな」
「……シャンやバギーと殺し合いか……」
二人の会話を聞きながら、フレイアが薄っすらと笑みを浮かべる。そんな未来が来たら自分は、シャンクスとバギーはどんな顔をしながら対峙するのか。それを考えていたら自然と零れた笑みだった。