第7章 番外編 喧嘩するほど仲がいい
「お前、名前は?」
少年は笑い転げる三人を完全に無視してフレイアに尋ねた。それにフレイアは真っ直ぐ彼の目を見て応えた。
「フレイアよ。ブローゾン・マーレ・フレイア」
「フレイア、フレイアね。おれはシャンクス。よろしくな」
人懐っこい笑顔を浮かべて名乗った少年に、フレイアもようやく小さく笑みを浮かべながら応えた。
「よろしく」
「なーんて感じでいいスタートを切ってなかったか?」
「ああ、そうだった」
「じゃあなんで、ああなってんだよ」
食堂で顔を突き合わせて話すロジャー、レイリー、ファイの視線の先では、フレイアに話しかけようとして華麗にスルーされるシャンクスの姿があった。
「見てる感じフレイアが一方的に避けてるよな」
「何か怒らせることでもしたのか……」
「なんにしても、シャンクスの落ち込みっぷりが可哀想になってくるな」
肩を落としてフレイアの背中を見る少年を見て呟いたレイリーの言葉に二人も静かに頷く。
「ここは年長者が一肌脱ぐしかねェか」
「子供同士の喧嘩なら放っておいてもいいんじゃねェか?」
「フレイアの頑固さに対処できる程シャンクスは経験値高くねェだろ」
「経験値?」
「この船のお姫様の対処経験値」
「ひとの娘を珍獣みたいな扱いすんな」
「お前の娘だからああなったんだろ」
「うるせェ」
口をへの字に曲げるファイを見て「ほら見ろ、そういうところだぞ」とロジャーが笑う。刀に手をかけたファイを見てレイリーが彼の頭に素早く手刀を落とす。
「やめろ」
「チッ……」
「とりあえず、二人から何があったのか話を聞いてみるか。ファイ、お前はシャンクス担当だ」
「なんで?」
「フレイアはお前相手だと意地になりがちだから」
「……」
不満はあるが、反論は出来ない。眉間の皺を深めながらも了承の返事をしたファイにレイリーは満足そうに頷く。
「お父さんは大変だな」
「フレイアからしたらロジャーもレイリーも父親だろ」
「おれたちは近所のお兄さんだろ」
「歳考えろ」
吐き捨てるように言うと、ファイが立ち上がった。意気消沈しながら食堂を出て行こうとしているシャンクスの方へ歩いていく背中を見送ると、残された二人は遅いお昼ご飯を食べているフレイアの両隣に席を移す。