第7章 番外編 喧嘩するほど仲がいい
「足元の処理が甘い」
「っつ!!」
「意識を一つに集めすぎ。戦いで一番大事なのは次手を相手の読まれないことだ。絶対に呼吸も意識も制御しろ。行動から相手に情報を与えるな」
未だ二桁にも満たない歳の子に無茶なことを、と他のクルーがいれば苦言を呈しそうなことを言いながらファイは木刀を無造作に振る。ファイの一挙一動に集中するように険しい顔で必死になっている娘を見ながら、内心微笑んでいたところ、船に近づいてくる気配を感じて彼の手が止まった。
(ロジャーとレイリーと……誰だ? 子供?)
「……お父さん?」
突然固まったファイを不思議そうに見上げるフレイアに向かって「待て」と指示をすると、ファイは船の上から下を見る。
そこには見慣れた二つの姿に挟まれて、一人の少年が立っていた。
「お前らついに誘拐でもしてきたかー?」
「馬鹿言うんじゃねェよ!!」
船に上がってこようとしながら、ロジャーがファイの問いに答える。
「新しい仲間だ!!」
満面の笑みでそう叫んだ船長を見て、ファイはやれやれと小さく笑ってフレイアに向き直る。
「稽古は終わり。ロジャーが面白い土産持ってきたみたいだ」
「面白いお土産?」
きょとんとした顔をするフレイアの頭をファイは軽く撫でた。
「フレイア! 新しいクルーが増えたぞ!」
「……」
驚いた顔で硬直したまま赤い髪の少年を見続けるフレイアを見て、大人達は並んでニヤニヤ笑っていた。
「未知との遭遇……か?」
「そりゃそうだろ。自分以外の子供と、しかも海賊になりたい奴となんか初めてなんだからな」
「ハハハ、想像以上の反応で面白いな」
大人三人が好き勝手いう隣で、無言で見つめられることに困ったらしい少年が口を開いた。
「あの」
「……え、あ、はい?」
完全に動揺しきっているフレイアの受け答えに、三人の笑い声が甲板中に響いた。
「お、お前意外と人見知りか!?」
「マイア譲りだな、クク」
「子供ってのはいいな、新しいことが多い」
(……なんか馬鹿にされてる気がする)
爆笑する三人を見て、少し冷静な思考が戻ったのを感じながらフレイアは口をへの字にする。