第7章 番外編 喧嘩するほど仲がいい
「フレイア! 新しいクルーが増えたぞ!」
ロジャーの大きな声のする方に目を向けたフレイアの目が丸く見開かれた。声の主の隣で居心地が悪そうな顔をしているのが、自分と大して歳の変わらないような少年だったからだ。
西の海のとある島に停泊していたロジャー海賊団は、その時は大部分が物品の調達や息抜きに上陸しており、残っていたのはフレイアとファイの親子だけだった。
「お父さん、私もおりたい」
「ダメ。独りは危ないだろ」
甲板に寝そべって本を広げていたファイの近くを歩き回りながらフレイアは顔を顰めた。
「だから皆と行きたいって言ったのに」
「荷物持ちのできない子供が何しに行くんだよ」
まして遊びに行った連中に付いていくなんてもってのほか……とファイは小さく付け加えた。大人達がどこに行くかなんてまだ知らなくていい。
「……じゃあ剣術教えて」
「……泣くなよ」
自他ともに認める「剣だけで生きてきた人間」であるところのファイは、剣のことになると手加減を忘れることが多い。だからこそ、近くにストッパーのいない状態で稽古をつけるのは気が引ける。なにより泣かれた前科がある。
父親の嫌そうな雰囲気をくみ取ったのか、フレイアは真剣な顔で「泣かない」と言い切った。それを見たファイはゆっくり読んでいた本をたたむ。
「木刀取ってこい」
「はい!!」
船内に走って行った娘の背中を黙って見送り、小さく溜息を吐く。
(おれの娘だから仕方ないけど、なんであそこまで剣術をやりたがるんだか。母親を見習って医術でも学んでくれた方が安心だったのに)
娘が頼ってくれて嬉しい反面、娘の将来を考えて不安を覚える。自分のような生き方はしてほしくないというのが彼の本音だった。
「お父さん! 持ってきた!」
しかし、そんな父の心配をよそに自分用の短いものと彼女の身の丈程あるファイの木刀を抱えて走って来るフレイアは笑顔だ。
「……転ぶなよ」
そんな笑顔に絆されて剣術を教えてしまう自分を自嘲しながら、ファイは立ち上がった。
(あいつの生存率を上げてやるため……ってのは、やっぱり言い訳か)