第6章 新しい家族
おれも父親は別にいるし、というエルトンにフレイアは眉を顰める。
「そうだけどー」
複雑そうな顔をする少女にエルトンを除く者達は顔を見合わせて笑った。
「子供心も難しいな」
「ま、元々敵だからねい」
「まぁオヤジは気にしないと思うよ」
別に呼び方なんか、といった様子の面々を他所にエルトンは一人で不服そうに腕を組む。
「じゃあおれのことエルって呼んでって言ったら?」
「本人がそうして欲しいなら呼ぶけど……」
「じゃあおれがオヤジって呼んてほしいから呼んで?」
「支離滅裂になってるよい」
「だって他人行儀じゃん」
せっかく一緒にしばらく暮らすのに、と唇を尖らせるエルトンの頭を、マルコが呆れた顔をして叩く。
「少しずつ慣れていけばいい話だろ」
「お……」
小さな声が聞こえてきて、全員の視線が一点に集まる。口元を手で隠して、視線を誰とも合わせないように背けたフレイアが、珍しく蚊の鳴くような声で言葉を続ける。
「お、オヤジ……さん?」
「……なんか、いけないことしてる気分に、イテッ!!」
素早く両側から拳が飛んできて、エルトンの頭を殴る。対象を沈黙させたのを確認してマルコとレオーラがフレイアを見ると、彼女は何故か恥ずかしそうな様子は変わらないが、口に馴染ませるように何度か同じ単語を呟いている。
「別に無理しなくても」
「……皆が気を遣ってくれてるのは分かってるし、歩み寄ってもらってばっかりじゃ申し訳ないし」
「じゃあおれもエルって呼んで」
「エル、うるさい」
「なんでおれはサラッと呼ばれるんだろ……」
「キャラの問題じゃない?」
正論で落ち込むエルトンにとどめを刺すと、レオーラが無言で自分を指差す。
「えっと、レオ?」
「ハイ良くできました」
「マルコも愛称考えてやろうか?」
「遠慮するよ」
そもそも自分の名前は略しようもないだろ、とマルコはフレイアの頭をポンポンと撫でた。
「オヤジのとこ行くか? 多分喜ぶぞ」
「え、いや、それはまだ難易度が」
「呼んだか?」
「ギャァ」
頭上から響いてきた声にフレイアが悲鳴をあげてマルコの後ろに隠れる。
「たまたま近くに居たんで呼んできたぞ」
「ビスタ、ナイス」
グッと親指を立てるエルトンの背中にフレイアが蹴りを入れる。騒ぎながら戯れ合う二人を見下ろしながら、白ひげは声を上げて笑った。