第6章 新しい家族
「ああ!」
「え、なに」
刀を交え始めて小一時間、お互い致命傷という怪我はないものの、掠った怪我や少し深い傷から流れた血が甲板を染めている。そんな中、フレイアが技をかけようと踏み込んだ瞬間にエルトンが声を上げたため、無意識に動きを止めてしまった。その隙をついて素早く刃を突き出すエルトン。止めていた技を素早く切り替えて、肩に刺さりかけた相手の刀を弾くと、フレイアは大きく距離をとって安堵の息を漏らした。
「おお、残念」
「……」
「あ、そうそう、さっき思い出したんだけど……おれに似てるのってお前とよく一緒にいる赤いのだろ」
「……」
(どうしよう、どこが赤いのか聞くべきかな)
「誰が赤ッ鼻だ!!」と脳内でキレてくるバギーを静かに蹴りだしながら思案すること数秒、フレイアは曖昧な顔で頷いた。
「まさか、それをずっと考えてたの?」
「え、うん」
「……」
全然戦いに集中されてなかったと堂々言われて、大人しくしているほど心の広い人間ではない。何よりプライドが傷ついた。
フレイアの目に一瞬で暗い影が落ちる。その体から発せられた殺気にエルトンが反射的に刀を構え直した。
(これだよ……最初の時と同じ)
どこから打ち込まれてもいいように神経を尖らせながら、エルトンがは小さく笑った。
フレイアと刀を交えた人間は、この船を探せば何人も見つかるだろう。ロジャー海賊団と遭遇して戦闘になった回数は片手の数じゃ足りない。ずっと乗っている彼女とは、あの無人島で拾う前から顔見知りともいえる仲だ。でも、と頭の中で呟きながら彼は目の前で刀を両手で構える少女を見据えた。
(でも、多分こいつの本気と対峙したのはおれしかいないな)
彼女が普段手を抜いているという話ではない。単純に気持ちの問題だ。ロジャー海賊団にいるということは、圧倒的に自分より上であり、尚且ついざとなれば彼女を庇護する者達が沢山背中を守っている環境ということ。その安心感は彼女に無意識的に働いていたのだろうと、彼は二回の打ち合いの中で感じていた。
「……剣聖は『師匠』としては最高だな」
彼女が預けられた理由を思い出して、エルトンが呟いた瞬間だった。彼の身体が命の危機を感じて勝手に動いていたのは。