第4章 賄賂
御殿で光秀とさえりが夕餉を食べ終わった頃、見計らったように、ドスドスと廊下から足音が聞こえてきた。
「光秀! 光秀はいるか!?」
襖が開かれる。秀吉が顔を覗かせた。
「あれほど信長様に金平糖を渡すなと……!」
そこまで怒鳴ってから言葉を途切れさせる。
「あ、さえりも居たのか、すまない」
ものすごい剣幕で部屋に入ってきた秀吉は、さえりを見て我に返ったようだった。
「仕方ない、賄賂だからな」
光秀は折角冷静になった秀吉を煽る。
「賄賂ってお前!」
再び秀吉が激昂する。
「信長様のお体に障ったらどうするんだ!」
そこなの? 賄賂を贈った事に対してじゃないの? と正直思うが、秀吉は至って真面目だ。
「では信長様に、さえりにちょっかい出さないように伝えておいてくれ」
「わかった、よく言っておく。だから光秀も金平糖を渡すなよ!」
「信長様次第だな」
ニヤニヤ笑う光秀を一瞥し、秀吉は憤慨しながら帰っていった。
実のところ、ここまでがいつもの光景だ。予定調和、というやつだ。
「信長様と光秀さん、一緒になって私と秀吉さんをからかってますよね……?」
「よくわかったな」
光秀はニヤニヤと愉しそうに答えた。
「さすがに何度もされたらわかりますよ……」
さえりはため息をついた。秀吉さんにも同情する。同時に同志のような心強さも感じるのだった。