第4章 賄賂
「あっ信長様、お疲れ様です」
さえりは廊下の先を行く信長に声をかけた。
「さえりか。今帰りか?」
折り畳まれた風呂敷しか持っていないさえりを見て信長は言った。
「はい。先程、着物を届けて来ました」
針子の腕を見込まれて注文が多く入るため、ここのところさえりは忙しくしている。公私ともに充実しているようだ。
「ところで」
信長は持っていた扇子でさえりの顎を掬い、上を向かせる。
「最近色っぽくなったようだが。よっぽど光秀に可愛がられているとみえる」
信長はニヤリと笑う。
「どうだ、今宵は夜伽でもしてみないか?」
「なっ……! 何を」
何を言っているんですか、と言いかけたその時、グイと肩を後ろに引っ張られる。
「丁重にお断り致します」
「光秀には聞いとらん」
信長は面白く無さそうにさえりの後ろに立つ光秀を見た。
光秀はニヤリと笑いながら懐から小袋を出す。
「信長様、今宵はこれでご容赦願います」
信長はその小袋を受け取る。
「ふん、今日の所はこれで勘弁してやる」
笑みを浮かべながら信長は去っていった。
「光秀さん、今のって……?」
「賄賂だ」
事も無げに光秀が答える。
「……」
さえりはため息をついた。なんだか、最近ちょこちょこ同じような光景に出くわしていた。
信長がさえりにちょっかいを出し、光秀が賄賂と称して小袋を渡す。お馴染みの光景だ。
さえりはもう一度、ため息をついた。