第19章 月花
日が沈み、やがて辺りは暗闇へと姿を変え、空には太陽に代わり月が姿を見せる。
さっきまで賑やかな宴会場だった花畑はしんと静まりかえり、夜の静寂に包まれていた。
花畑で寄り添う二つの影。
片付けを手伝いますと言うさえりを制し、後は二人の時間を過ごすがいい、と皆は宴会場を撤収して行った。
二人は花畑に座り込み、光秀が後ろからさえりを抱きしめていた。
「懐かしいなぁ」
さえりが花を摘み、編んで花冠にする。
「器用だな」
光秀は不思議そうに花冠を見つめた。
「昔、よくこうやって遊んでいたんですよ」
小さい頃、近くの公園にシロツメクサが沢山咲いていた。そこで四つ葉のクローバーを必死に探していた事を思い出す。見つけたら幸せになれるという話を信じて。でも今はもう、それを探す必要はない。自分を抱きしめてくれる人がいる。
「光秀さん」
さえりは空を見上げた。
「月が綺麗ですね」
「ん? 何だ、急に」
「ふふ、思った事を言っただけです」
現代文学における、I love you。たしか有名な文豪が、そう訳した事をさえりは思い出していた。
いつもとは違う伝え方で、愛を伝えたかった。勿論、真意なんて伝わるはずがない事はわかっていたけれど。それでも、さえりは満足だった。
「満月、か……」
同じように空を見上げた光秀が呟く。
花冠をスッと取り上げ、さえりの手首に巻き付けた。
「懐かしいな」
ニヤリと笑いながら光秀が言う。
「初めて触れた日を思い出すな。覚えているか?」
「忘れませんよ……!」
さえりは赤い顔で言った。忘れろと言う方が無理な話だ。
「さえり、此処でさっきの続きをするか?」
「えっ」
さえりは驚いて光秀を見た後、周りをキョロキョロと見渡した。そして光秀の胸に頬を寄せる。
「人に見られるのは恥ずかしいので……誰にも見られていないのなら、貴方の望む通りに」
そう発言するさえりは耳まで真っ赤だ。
「可愛い奴だな」
うっかりこぼれ落ちた心の声に苦笑を漏らした後、光秀はさえりの顎を掬い、口づけた。