第19章 月花
秀吉と政宗が光秀達の席にやって来た。
「全快おめでとう」
「良かったな、戻ってこれて」
「ありがとう。心配かけてごめんね二人とも」
盃に酒が注がれる。
「炎の中からとはいえ、まさか井戸に飛び込むとはな。聞いた時は流石の俺も鳥肌が立ったぜ。勝算はどのくらいだったんだ?」
「九割かな」
「光秀にしては低いな」
戦火に巻き込まれた時、二人は生き延びる為の賭けで、光秀がさえりを抱え近くに見えた井戸に飛び込んだ。遠くから二人が跳んだ姿を見た家臣がすぐさま秀吉に報告し、駆け付けて二人を救出した。
「あの時は助かった。感謝する」
光秀は秀吉に頭を下げた。
「光秀に素直に感謝されると気持ち悪いな」
「もう秀吉に足を向けて寝られないな。秀吉様、だな。お礼に何でも願いを叶えてやろう。何がいい? 秀吉様」
「やめろ、様とか言うな! しかも何で上から目線なんだ」
秀吉が顔をしかめながら言う。さえりと政宗は必死に笑いを堪えていた。
秀吉は少し考えてから、口を開いた。
「じゃあ、死ぬな」
「……お前がそれを言うのか」
信長の右腕と左腕。両方失っては堪らない。さえりと政宗は顔を見合わせ、光秀と秀吉の間には暫く沈黙が流れる。
ふと光秀が不敵に笑った。
「わかった。では俺は不老不死を目指すことにしよう」
「全然わかってない!」
秀吉が声をあげる。
「まあまあ秀吉、光秀相手にそう熱くなるな。宴席だぞ」
政宗が熱くなった秀吉をなだめる。
「……ああ、そうだな悪い。まじめに答えた俺が馬鹿だったよ」
背を向けた秀吉に、光秀が声をかける。
「秀吉」
「何だ」
「俺はあの時生きる選択をした。お前も死ぬなよ」
「お前が言うな……簡単には死なないさ」
秀吉はその場から離れて行った。
「どうだか」
光秀は苦笑する。
「お前らなー、仲良くしろよな」
政宗は秀吉を追いかけて行った。
「光秀さん……大丈夫なんですか?」
さえりが心配そうに光秀を見る。
「心配するな。秀吉とはこれぐらいが丁度良いんだ」
「そうですか……仲が良いのか悪いのか、わかりませんね」
さえりは苦笑していた。