第19章 月花
三成が徳利を持って光秀達の席にやって来た。
「光秀様、さえり様、全快おめでとうございます」
「ありがとう、三成くん」
「ああ、ありがとう……だが、その徳利をどうする気だ」
「勿論、お注ぎ致します!」
三成が徳利を傾けようとした所に、横から手が伸びてきて取り上げられた。
「熱燗をこぼされたら火傷してまた怪我人が出るでしょ。怪我を診るの俺なんだけど。これ以上、面倒事増やさないで」
「家康様、私のことを心配して下さるのですね! 嬉しいです」
「俺が心配しているのはお前じゃない」
思ったとおり徳利を取り上げたのは家康で、思ったとおりのやり取りが目の前で繰り広げられる。
「相変わらず仲が良いな」
「止めて下さい」
「そうですよ。仲が良いと言うのではなく、尊敬しております」
二人のやり取りを見て、くすくすと笑うさえりを家康がじろりと睨む。
「もう、大怪我なんかしないでよね。あんな姿、二度と見せないで。あんたはそうやって、へらへら笑ってる位が丁度いい」
「わかった。ありがとう家康」
素っ気ない言い方だけど、心配していた事が伝わってくる。
「あの時は世話になったな」
「別に、俺は自分の仕事をしただけです」
照れているのか、家康はプイッと顔を背けた。
「あと、二人とも人前でいちゃつきすぎ。さっきも秀吉さんに止められなかったら、何してたんだか」
「あ、あれは、そういうんじゃなくて……」
「どうだか」
家康はふっ、と微笑んだ。
「あ! 三成! 熱燗被害者を出すなってば!」
いつの間にか向こうの方で三成が徳利を傾ける姿が見える。家康が慌ててかけて行った。
「何だかんだ面倒見が良いよね、家康は」
さえりが笑いながら言う。
「そうだな」
家康が聞いたら即座に否定されそうだと思いながら、光秀は盃の酒を飲み干した。