第19章 月花
地図に示された場所は、一面の花畑だった。
そこに設置された、宴会場。
「おう、遅いぞ光秀!」
光秀に気がついた政宗が手招きする。
「遅い、とは随分な言われようだな」
何も知らされていなかったのにと思う。恐らく驚かせたかったのだろう。
「あっ!お帰りなさい。光秀さん」
「ただいま」
駆け寄ってきたさえりの頭を撫でてやると、さえりは嬉しそうに微笑む。
それを見た家康がはーっとため息をついた。
「早速ですか」
「まだ髪を撫でただけだが?」
「まだとか言わないで下さい。宴中はいちゃつくの禁止」
「それは難題だな」
そう言って笑った後、光秀は信長の前に膝をつく。
「ただいま戻りました」
「ああ。問題無かったか」
「はい、変わりありません」
「そうか、大儀であった」
一通り報告を済ませた後、懐から先程の手紙を取り出す。
「で、これは一体?」
「最近貴様がさえりを独り占めしているからな、奪ってやったわ」
わははと笑う信長にさえりが反論する。
「信長様!誤解するような言い方は止めて下さい!」
「私も知らなかったんです、御殿から強引に連れてこられたら此処だったんですよっ」
「ほう」
慌てて言い訳をするようなさえりの言動に、光秀はさえりの顎を掴み顔を寄せる。
「それで易々と奪われたのか?では奪い返さなくてはな」
目の前でニヤニヤと意地悪く笑う光秀に、さえりは頬を染めて動けなくなる。口づけられる、とさえりが思った瞬間、扇子が二人の視界を遮った。
「宴とは言え信長様の御前だぞ。そういうのは後にしろ」
秀吉が苦々しい顔で扇子を広げていた。
「秀吉、邪魔をするな。今良い所なんだ」
「おーまーえーなぁ」
「す、すみませんっ」
さえりが赤い顔で俯く。光秀はさえりの耳元で囁いた。
「続きは、後でな」
さえりはますます赤くなる。耳まで真っ赤だ。
「おい、飯が冷めるぞ。秀吉、光秀、じゃれてないで早く席に着け」
「じゃれてねえ!」
秀吉がプリプリ怒りながら席に着いた。
「皆さん揃いましたね」
三成が周りを見渡した。盃を持つ信長が音頭をとる。
「遅くなったが、二人の快気祝いだ。存分に楽しめ。乾杯」
「乾杯!」
和やかな宴会が始まった。