第18章 覚悟
さえりが目を醒ましてから一月が経った頃。二人は多少の傷は残るものの、肌艶は良くなり、すっかり元気を取り戻していた。
そろそろ大丈夫かな、と光秀は思った。
「さえり」
軽く唇をついばんだ後、深く口づけた。
「ん、んんっ…」
最近はさえりの体調を案じて、触れるだけの口づけしかしていなかった。久々の深い口づけに気分が高揚する。
「今日は、優しくする。大丈夫か?」
優しくとはどんな風だったかな、とちょっと頭の隅で考えながらもさえりに確認する。
「はい。光秀様」
頬を染めてさえりが頷く。久しぶりに聞く呼び方に心が弾むが、帯を解きながら、珍しく手加減するなと言わないんだな、やはり傷が痛むか、と考える。
「光秀様も病み上がりなんですから、無理しないで下さいね」
「は? 俺?」
思わず間抜けな声が出た。
「そうですよ。……え? 私、変なこと言いました?」
くくくっ、と喉をならして笑う光秀にさえりは困惑の表情を浮かべた。
「いや、お前らしいと思ってな」
さえりの着物を総て剥ぎ、褥にそっと横たえる。光秀も着物を脱いだ。早くさえりの肌を、自分の肌で感じたかった。互いに生きている、という実感を、感じたかった。
さえりの肌には、あの時の傷や火傷の名残が、まだ残っている。
「痕が、残らなければ良いが…」
その痕を一つずつ、手でなぞり、口づける。
「あっ、はあっ…」
与えられる口づけひとつひとつに、さえりが吐息を漏らす。
さえりは光秀に手を伸ばした。
「貴方にも、傷痕が…」
光秀がしたのと同じように、さえりは傷痕に口づけた。
そして、潤んだ瞳で光秀を見つめる。
「あの時、共に生きる道を選んでくれて、ありがとうございます」
あの時の、あの選択は間違っていたのではと、何度も何度も自分に問いかけてきた答えを、さえりはあっさりと返した。
光秀はさえりをぎゅっと抱きしめた。
「……お前は……俺を、泣かせる気か」
「え……そんな……つもりは……」
頬を伝う、一筋の幸せな、涙。
生きていてくれてありがとう。生きているから、こうして触れられる。
笑ったり、泣いたり、忙しくて……
まるでさえりがうつったようだと光秀は思った。