第18章 覚悟
翌日の午前を過ぎてもさえりは目を醒まさなかった。太陽は高く昇り、さんさんと辺りを照らす。容赦のない明るさは残酷にさえ感じられた。
覚悟、と言う言葉が光秀を駆け巡る。
「さえり……俺は共に生きる覚悟しかしていないぞ。違う覚悟などさせてくれるな……」
力ない、悲痛な叫び。
あの日、戦火の中で叫ぶさえりを思い浮かべる。
――私にも覚悟があります!
そう言っていたさえりの気持ちが今ならわかる。
「さえり、愛している」
光秀はさえりの唇にそっと口づけた。
「う、ん……」
さえりの睫毛が揺れ、ゆっくりと目が開けられていく。
「み、つ、ひで、さん……?」
さえりの瞳が光秀を映す。自分の名前を呼ぶ声に光秀は目頭が熱くなっていく。
「さえり……さえりっ!」
手を握りしめ、名前を呼ぶ事しか出来ない。涙が頬を伝う。
「どう、したん、ですか……?」
心配そうなさえりの声は枯れていた。光秀は急いで水を取る。そして口移しでゆっくり飲ませていった。
「もう、急すぎ……」
そう言ってさえりが微笑む。声の枯れは少し治まっていた。
光秀は従者に指示を出す。家康と城への報告だ。
家康は直ぐに来た。目醒めたさえりの姿を見てホッとした表情を浮かべる。
「もう大丈夫だね。後はゆっくり休んで栄養と体力をつけて」
「わかった。ありがとう、家康」
家康は微笑むと、部屋を出ていった。
「家康」
光秀が家康を追いかけてきた。
「昨日は、すまなかった」
頭を下げる。
「良かったですね。俺の事は良いから、傍にいてあげて下さい」
「ああ、ありがとう」
光秀は素直に微笑むと、部屋へ戻っていった。
光秀はその夜、さえりと手を繋いだまま、泥のように眠った。