第17章 悪戯
さえりは涙目になり真っ赤な顔で首を横に振っていた。
その仕草は余計に光秀の悪戯心を煽る。
側には酒を飲まされて眠っている政宗と、戦術書を読みふける三成の姿があった。
それを横目に、光秀はさえりに深く口づけた。
――数刻前。
今日は政宗が御殿に招き、手作りの夕餉を振る舞ってくれていた。食事をまともに摂らない三成と光秀のために、時々こうして食べさせてくれる。
最近はさえりが居るから、光秀の方は心配していないが、まあついでだと政宗は笑った。
膳を囲みながら、四人で談笑する。安土の事、武将達の事など、話題は尽きない。
しかし暫くすると、急に政宗が黙った。
「光秀、てめぇ……覚えてろよ……」
そう呟いた後、倒れこんで寝てしまった。
「油断大敵だな」
そう言って笑う光秀の手には徳利が握られている。さえりはため息をついた。何かしないといられないのか、この人は。
「折角、招待してくれたのに……」
「お人が悪いですね。でも食事中も油断しないとはさすがです」
「いや、戦場じゃないし、食事中は油断していいから!」
嫌味なのか天然なのか、いや天然だろう三成の言葉にさえりは呆れ気味に答えた。
「そんな三成に良いものがある」
光秀は持っていた戦術書を三成に渡す。三成はそれを受け取ると、目を輝かせ直ぐに読み始めた。
さっきまで賑やかだった部屋は急に静かになる。
「二人っきりになれたな」
光秀は愉しそうに笑う。
二人っきりじゃないし!
さえりは心の中で叫んだ。
「わざとですか……!」
「さあ……」
光秀はさえりにそっと口づけた。