第16章 密会
ある日、城下へ買い物に出掛けたさえりは、遠くに光秀の姿を見つけた。
遠くても直ぐにわかる、愛しい人の姿。
今すぐ駆け寄って、声をかけたかった。
でも、仕事の邪魔はしたくない。
重荷にはなりたくなかった。
声をかけることで、光秀を危険に晒す可能性がある事も承知していた。
暗中飛躍。
自分が惚れたのは、そういう男だ。
その場に佇み、唇を噛む。
同じ安土にいる筈なのに。近くて遠い。
触れると切れそうな、刃物のような雰囲気を纏う光秀の姿をしっかりと目に焼き付ける。
暫く見つめた後、さえりは、くるり、と向きを変え、来た道を戻っていった。