第16章 密会
調査は難航していた。相手は手強く、もう少しで尻尾を掴めそうな感じがあったが、思ったよりも時間がかかっていた。
御殿へと戻ってきた光秀はただいまと言いかけて口を閉ざした。さえりと逢わなくなってもう何日も経つのに癖が抜けない。いつの間にか居ることが当たり前になっていたのだと、初めて気づく。
部屋にはさえりとの想い出の品が沢山置いてあった。光秀は以前贈られた羽織を見遣る。
白を基調として段々と薄縹色に変わっていく美しい色の生地には、白い花の刺繍が散りばめられ、満月と白狐の刺繍も施されていた。
「これではお前が居ないではないか」
刺繍に触れながらひとりごちる。今の仕事が解決したら、さえりを模した動物の刺繍を追加して貰おう。何がいいかな、千切れんばかりに尻尾を振る子犬あたりか。そんなことを考えていると口許が少し緩む。
さえりの顔が頭に浮かぶ。
きっと辛い思いをさせているだろう。自分の噂は把握している。何を言われようが自分では気にならないが、さえりが泣いていないかそれだけが気になる。
さえりの為にも、早く解決しなければ。
光秀は口を固く引き結び、御殿を後にした。