第15章 欲しいもの
宴はつつがなく進んでいった。
夜も更けた頃。
さえりはふわふわしていた。少し酒に酔ってしまったようだ。なんだか気分がいい。
「さえり、飲み過ぎだ。そろそろ止めとけ」
「大丈夫、ですよー」
さえりは無邪気に答えながら、光秀の肩にもたれる。光秀の体温が温かくて、さえりの瞼は重みを増す。
「全く……」
光秀はそう言いながら、さえりの為に寄り添いやすいよう、出来るだけ動かない様にする。
「ねぇ、光秀さん」
さえりが少し甘えた声を出す。
人前で珍しい。酔って眠くなってきているのか
「何だ」
「お礼の件、ですけど」
羽織の礼をするから欲しいものを考えておけ、と宴の前に光秀はさえりに伝えていた。
「決めたのか」
髪飾りでも、珍しい食べ物でも、何でも欲しいものを贈ろうと考えていた。さえりの事だから反物が良いと言うだろうか。その場合は極上の反物を買ってやろう。
「私、光秀さんの、時間が欲しいです……」
瞼を半分閉じかけながらさえりが言う。
「会えなかった分、光秀さんを、独り占めしたい……」
予想外の答えに、光秀は自分の頬が染まっていくのがわかった。
「わかった、わかったからもう寝ろ」
光秀はさえりの頭を自分の胸に引き寄せ、他の者にさえりの緩んだ顔を見られないよう隠す。さえりは素直に眠りに堕ちていった。
全く、この無防備で可愛すぎる生き物は何とかならないのか。してやられた感満載だ。
「寝かせてくる」
光秀はさえりを抱き上げ、城にあるさえりの部屋へと運ぶため、広間を出た。
程なくして戻ってきた光秀は自分の膳をあっという間に平らげると、席を立った。
「用事を思い出したので先に失礼する」
「おい! お前が主役の宴だぞ」
「もう十分だろう。秀吉、後は任せた」
信長の方へ向き直る。
「信長様、詳細は書簡にて報告させて頂きます」
「わかった」
光秀は足早に御殿へと帰っていった。
「用事、ねぇ」
「何だかんだ、ベタ惚れなんだな」
少し可笑しそうに政宗が言う。
「ああいうのは二人きりの時にやればいいのに」
家康はぶつぶつと文句を言いながらも二人を微笑ましく思っているようだった。