第15章 欲しいもの
数日後、安土城では宴が開かれていた。光秀の帰還を祝う会だ。
久方ぶりに安土へ帰ってきた光秀は、さえりが贈った羽織を身にまとい、宴に出ていた。
隣には少し気だるげなさえりが座る。
帰って来てから羽織を贈られた光秀はさえりの心遣いを嬉しく思い、我慢できずに宴の前に抱いてしまっていた。
まあ、あまり我慢する気もなかったのだが。
「詫びだ、食え」
煮物を箸で摘まんでさえりの目の前に運ぶ。
「何の詫びですか」
さえりが頬を赤らめる。
「具体的に言わないとわからないか? 帰って来てから……」
「大丈夫です! いただきます!」
ぱくり、とさえりが煮物を頬張った。
「そんなに腹が減っているのか。ほれ」
再び煮物を差し出すと、もう、と言いながらさえりがむくれた。それを見た政宗がヒュ~と口笛を吹く。
「仲が良いな」
「ちょっと、見せつけないで貰えますか」
「なんだ家康。羨ましいのか」
「何でそうなるんですか」
いつも通りの賑やかな会話が飛び交う。
「あまりさえりを苛めるなよ」
「無理だな。これが俺の愛し方だ」
平然と言ってのける光秀に、その場にいた全員が頭を抱える。光秀はいつも以上に絶好調だ。さえりは嬉しくなる。
いつもの光秀さんだ
無事に帰って来てくれた
「本人は苛められて喜んでいるようだぞ」
「喜んでません!」
そう言いながらも、少し頬が緩むのは隠せない。
さえりは光秀に近づき、盃に酒を注いだ。
「光秀さん。無事に帰って来てくれて、ありがとうございます」
「心配をかけたな」
光秀は微笑みながらポンポンとさえりの頭を撫でた。