第11章 嫉妬
光秀は丘に1人佇んでいた。
空を睨むかのように見つめる。
どのくらい時間が経っただろう。
やがて日が落ち、辺りが段々暗くなってくる。
すると後ろから、サクサクという草を踏みしめる足音が聞こえてきた。
「よくここが分かったな」
「たぶん、ここかなって……」
光秀が振り向くと、さえりが立っていた。足は泥だらけで、裾も汚れている。嘘が下手だ。あちこち探し回ったのだろう。
「こんな遅くに1人で、危ないだろう」
「ごめんなさい。光秀さんの事が心配で」
あんなことをされて、怒っていいはずなのに、心配とは。どこまでお人好しなのか。
さえりは光秀の手をとり、両手で包み込んだ。
「あの、今日は、私が軽率な行動をしてしまって、ごめ……んっ」
言葉を遮るように、光秀はさえりに口づけた。
「謝るな。お前は悪くない」
「でも……」
「お前の行動を制限するつもりはないんだ」
縛るのは、心だけでいい。
ただ、あの時は。
嫉妬と不安と安堵と不甲斐なさと……
色んな感情がごちゃ混ぜになって、珍しく制御を失ってしまった。
「さっきは、すまなかったな」
今度はさえりの目を見て言えた。
さえりは光秀に歩み寄ると、つま先立ちをして光秀に口づけた。
「謝らないで下さい。私、光秀さんの事、全部受け止めますから」
光秀は目を丸くして驚いた。そうだ、さえりはこういう女だった。
「おいで」
光秀はその場に座ると、笑顔でさえりを誘う。足の間に座らせ、後ろから抱きしめた。
顔をさえりの首筋に埋める。
さえりの体温と匂いが光秀を包み込む。
あのまま、勢いに任せて、さえりを抱かなくて良かった。心からそう思う。
さえりがそっと光秀の髪を撫でた。
「何のつもりだ?」
「光秀さん、泣いているかと思って」
「……」
泣いてなどいない、いないが。
「暫く、このままでいろ」
「はい」
さえりは光秀の髪を黙って撫で続けた。