第11章 嫉妬
静かな睨み合いが続いていた。
さえりは口を開きかけたものの、何と言って良いのかわからず、口を閉ざしていた。
暫くして。
「安土を戦場にするつもりはない。早々に立ち去れ」
「俺も罪なき民を巻き込むつもりはない」
「いずれ、戦場で」
互いに視線をぶつけ合った後、信玄はさえりに笑顔を向けた。
「では美しい天女、またな」
「は、はい」
信玄は去っていった。
その姿が消えた事を確認した光秀はさえりの手を引き、黙ってその場を後にする。
時々さえりが躓きそうになりながらも、足早に御殿へ帰ってきた。
光秀はずっと黙ったままだ。さえりからは表情が見えない。
「光秀さん……?」
さえりは不安になって声をかけた。
ピシャリ、と音を立てて部屋の襖が閉じられる。
光秀はさえりに向き直ると、さえりの着物の袷を乱暴に開いた。
口づけて強く吸う。
「あっ」
紅い花びらがさえりの肌に付けられる。
だが光秀は止まらない。
さえりの力が抜け、座り込んでも、痕をつけ続けた。
いくつも、いくつも、
さえりの胸元に紅い花びらが舞い散っていく。
さえりは光秀の髪に指を差し込み、力を込めた。
「は、あっ、光秀、様っ」
吐息混じりの悲鳴にも似た声。
その声に、ハッと光秀は我にかえった。
乱暴にみだされた胸元に、痛々しく散るいくつもの紅い痕。困惑の表情と潤んだ瞳。
こんな時でも、お前は俺を、様と呼ぶのか
光秀はさえりの着物の袷を閉じ、整えた。
「悪かった」
さえりの顔をまともに見ることができない。
「少し出掛けてくる」
頭を冷やしたかった。
光秀は立ち上がると、1人静かに部屋を出ていった。