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きつねづき ~番外編~

第10章 仲直りの方法


光秀とさえりは御殿で夕餉を摂っていた。相変わらずさえりは黙っている。

夕餉の後。

「さえり、お茶を取ってくれるか」

さえりは黙って光秀の湯呑みにお茶を注ぐ。
一言も発しない。

光秀はため息をついた。

「いつまで黙ったままでいるつもりだ」

少し低めの声に、さえりはビクりと動きを止めた。

「だって……」

さえりは唇を噛み、泣きそうに俯いた。

光秀は眉をひそめる。

おや? 怒っているのではないのか?

さえりの傍へ行き、そっと抱きしめ、頭を撫でた。

「怪我の事か?」

さえりは無言で頷いた。

「黙っていたのは心配させたくなかったからだ。殆ど治りかけているし……」

「わかってます。わかってますけど」

「心配ぐらい、させて下さい……」

着物をぎゅっと掴む。

「治ってもいないのに、私だけ知らずに笑っているのは嫌です」

「怪我をしている事を、他人から聞くのも嫌です」

光秀の腕の中でさえりは泣いていた。

そうか、お前は俺の口から聞かされなかった事を悲しんでいたのだな……

暫く黙って髪を撫でる。

「どうしたらお前の機嫌が治る?」

さえりは少し考える。

「私に怪我の手当てをさせて下さい」

「気持ちのいい痕ではないぞ」

「それでも。大丈夫です」

光秀は観念する。

「わかった。明日一緒に家康の所へ行こう」

「はい!」

さえりは涙でぐしゃぐしゃになった顔で微笑んだ。

久し振りにさえりの笑顔を見た光秀はホッとする。

そっと口づけた。

その口づけは少しだけしょっぱかった。

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