第35章 毒
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家康はいそいそと天幕を出ていくさえりを見送った。
「拗ねたんですかね?」
「さあ……?」
不自然なさえりの行動に首を傾げる。光秀も同意するかのように呟いた。
「家康」
名を呼ばれ振り向くと、光秀が神妙な面持ちでこちらを見ていた。
「俺は、さえりを誰にも渡す気はない」
「……知ってますけど」
何をいまさら、と思う。わざとらしい程にさえりとの仲を見せつけていたのは、虫除けのためではなかったのか。
「だが……」
光秀は一呼吸置いて、ゆっくりと息を吐く。
「万が一、俺に何かあった時は、お前にさえりを託したい」
「……は?」
急に何を言い出すのか。意味が分からない。真意を探ろうと光秀の顔を窺う。しかし冗談を言っているようには見えなかった。