第35章 毒
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2日後、光秀は回復し、体を起こせるまでになった。側には安堵の表情を浮かべるさえりがいた。しかしその顔には少し疲れが見えている。看病疲れというやつだろう。
「心配かけたな」
「いえ……良かったです」
さえりの頭を撫でてやると嬉しそうに微笑む。まるで仔犬だな、と光秀は心の中で笑う。心配をかけた詫びに、さんざん意地悪した後抱きしめて、心ゆくまで甘やかしたい。
今、この場に家康がいなければ、だが。
横目でチラリと家康を見る。しかし看病してもらっている手前、邪険にも出来ない。
「すみませんね、邪魔者みたいで。はい、薬ですよ」
「今は病人だから大丈夫だ、気にするな。……ありがとう」
見計らったように家康が薬の入った湯呑みを差し出す。光秀は笑顔でそれを受けとった。
「病人じゃなきゃ邪魔とも聞こえますね」
家康の嫌味を聞き流しながら、光秀は違和感を感じていた。家康の態度がいつもと少し違う。何か柔らかくなったような気がする。不思議に思いながらも、手にしていた薬を一気に飲み干した。