第35章 毒
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天幕を出た家康はため息をついた。まさか口移しで薬を飲ませるとは思わなかった。
「もしも、あの時」
毒矢を受けたのが自分だったなら。その可能性は十分にあった。
――あんたは同じようにしてくれていたのかな
ふっ、と家康は笑った。
きっと無理だろう。もし、同じ様にしようとしても光秀が止めていただろう。それならば俺が、とか言い出しかねない。それは流石にごめん被りたい。
先程さえりが飲んだ湯呑みを見つめる。唇が触れたであろう場所に軽く口づけた。
「苦い……」
僅かに唇に残った薬はとても苦くて、まるで自分の気持ちを表しているかのようだ。さえりはよくこれを口にしたなと感心する。
出る幕がないな、と苦笑しながら、家康はさえりの為に口直し用の水を持ってこようと考え、歩きだした。