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きつねづき ~番外編~

第35章 毒


◆◇◆◇◆◇

天幕を出た家康はため息をついた。まさか口移しで薬を飲ませるとは思わなかった。

「もしも、あの時」

毒矢を受けたのが自分だったなら。その可能性は十分にあった。

――あんたは同じようにしてくれていたのかな

ふっ、と家康は笑った。

きっと無理だろう。もし、同じ様にしようとしても光秀が止めていただろう。それならば俺が、とか言い出しかねない。それは流石にごめん被りたい。

先程さえりが飲んだ湯呑みを見つめる。唇が触れたであろう場所に軽く口づけた。

「苦い……」

僅かに唇に残った薬はとても苦くて、まるで自分の気持ちを表しているかのようだ。さえりはよくこれを口にしたなと感心する。

出る幕がないな、と苦笑しながら、家康はさえりの為に口直し用の水を持ってこようと考え、歩きだした。

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