第35章 毒
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家康が大急ぎで光秀の元に到着した頃。戦況は敵味方入り乱れての混戦になっており、光秀の隊が僅かに押されているようだった。
「光秀さん!」
「家康か、助かる」
光秀が敵の攻撃を交わしながら、家康の呼び掛けに応じる。その短い言葉に、切羽詰まっていることがわかった。
家康の部隊は直ぐ様加勢した。家康と光秀は互いの背を合わせ次々に敵をなぎ倒していく。劣勢ではなくなったものの、勢いづいた敵は手強かった。
「埒があきませんね」
中々減らない敵の数に、家康がぼやく。その時、ある一点を気にしながら戦っていた光秀が、唐突に言葉を投げかけた。
「家康。見つけた」
一瞬視線を合わせ、互いの意図を汲み取る。
「了解」
光秀が馬に飛び乗り銃を構えた。照準を合わせ微動だにしなくなる。その姿を見た敵が好機と捉え光秀めがけ襲いかかって来た。
「隙あり!」
「冗談でしょ」
家康は光秀の前に立ち塞がり、斬りかかってきた敵をなぎ倒す。その姿を見た敵の1人がこちらの策略に気付いたようで、後ろに回り込み光秀に飛びかかった。
「させるかぁ!」
「こっちの台詞!」
クルリと向きを変え、光秀に向けられた凶刃を家康が受け止める。そしていとも簡単に敵を切り伏せた。
「もう面倒だから纏めてかかってきなよ」
家康の挑発に乗った敵が、次から次へと襲いかかってくる。家康は光秀に指一本触れさせるものかと、背に庇いながら刀を振るう。その姿は華麗で、敵でさえも目を奪われる程だった。
「はぁ、はぁ……」
流石に家康が肩で息をし始めたその時。
ズガァーーーン
発砲音の後、一瞬、戦場が静寂に包まれた。
敵味方共に何が起きたのかわからず、動きが止まる。
「御館様ぁ!!」
静寂を破るように、敵陣から悲鳴が聞こえた。
光秀の銃から放たれた銃弾は、敵の将を見事に撃ちぬいていたのだ。
将を失った敵は総崩れとなり、やがて蜘蛛の子を散らすように撤退していった。