第35章 毒
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翌日。
さえりは陣営の真ん中で、朝日を浴びながら大きく伸びをした。昨夜は光秀にちょこちょこ悪戯された後、抱き合って一緒に眠った。戦場には似つかわしくない、少し甘い夜だった。
「よし、頑張ろう」
戦場で出来る事は少ないけれど、自分にできる仕事をして、少しでも役に立ちたい。
「張りきりすぎて、怪我しないでよ」
後ろから来た家康が、通りすがりに声をかけていった。一人気合いを入れていた姿を見られて恥ずかしく思いながら、心配してくれた事に感謝する。
「うん、ありがとう」
「お礼いうとこ変だよ、あんた」
家康が呆れ顔で振り返った後、スタスタと去って行った。相変わらず素直じゃないなあと、さえりは家康の後ろ姿を見ながら苦笑する。そんな事を言いながらも気に掛けてくれる家康の優しさが嬉しかった。
そんな中、報がもたらされたのは、その日の午後だった。
陣営に蹄の音が急速に近づき、馬のいななきと共に止まる。1人の兵が家康の元に駆け寄り跪いた。
「申し上げます! 光秀様の隊が奇襲されたとの事にございます!」