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きつねづき ~番外編~

第35章 毒


◇◆◇◆◇◆

光秀はさえりと家康が話している方へと足を向けた。一瞬家康がこちらを見た気がするが、直ぐにその場を去って行った。その姿をさえりが心配そうに見つめている。

「さえり、どうかしたか」

「何だか家康が……気のせいかな」

「……そうか」

光秀はさえりを強引に振り向かせ、ギュッと抱きしめた。

「ちょっ、光秀さんっ、何して……」

――頼むから俺だけを見ていてくれ

さえりが恥ずかしがって声をあげるが、更に強く抱きしめる。

「光秀さん?」

腕の中のさえりは大人しくなり、心配そうな声が聞こえる。

――頼むから気付かないでくれ。家康の想いにも、嫉妬にかられた男の醜い心にも

「……どうしたんですか? 何かあったんですか?」

「いや」

光秀は腕を緩め、さえりの頬に手を添えた。

「今宵は一緒に休むか?」

「えっ、いいんですか? でも邪魔になりませんか」

パッとさえりが笑顔になり、直後に眉を下げる。
戦場へ来てからは部隊が違う事もあり、二人は別々の天幕で休んでいた。

「お前が期待するような事は出来ないが」

親指をさえりの唇にゆっくり這わすと、さえりはその先を想像したのだろう、真っ赤になった。

「き、期待なんてっ」

「しないのか? それは残念だ」

言葉を詰まらせたさえりを見て光秀は満足する。そしてさえりの額に軽く口づけた。

「帰ったら存分に啼かしてやるから我慢しろ。今宵は……添い寝してくれるな?」

耳元で囁くと、さえりは小さな声で恥ずかしそうに、はい、と頷いた。

「では後でな」

さえりの頭をポンポンと撫でてから、光秀は自分の隊へと戻っていった。

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